どのような種類の自動車の保険があるのか、また、自分の加入している自動車の保険の内容はどうなっているのか、あまり関心を持たないことが通常であるかとは思いますが、適用される保険契約によって被害者の権利保障が左右されるといっても過言ではありません。
ここではどのような種類の保険があるのか、自動車に関する保険をいくつか紹介します。
自動車に関する保険
自賠責保険
正確には「自動車損害賠償責任保険」といい、自動車による人身事故の被害者を救済するため、加害者が被害者に支払う義務のある損害賠償額のうち、一定限度額を支払うことを保障するものです。法律上、加入することが強制されています。
自賠責保険金の支払限度額は、裁判で認められる賠償金よりかなり低額になっています。例えば、傷害部分は120万円、死亡なら3000万円、後遺障害がある場合には14級~1級の等級に応じて75万円~4000万円がそれぞれ上限となっています。
自賠責保険金は被害者が自賠責保険会社へ直接請求することができ、(「被害者請求」といいます。)その手続きのなかで後遺障害等級が決められます。ただし、後遺障害等級は損害保険料率算出機構という自賠責保険会社とは別の団体が認定することになります。
他には、任意保険会社が主体的に損害保険料率算出機構に対する後遺障害等級認定の手続をする方法もあります。(「事前認定」といいます。)実務上はこの事前認定の方法で後遺障害等級が認定されることが多いです。
後遺障害等級認定のための手続きを被害者請求で行うか、あるいは事前認定で行うかは交通事故に詳しい弁護士に一度相談することをお勧めします。
任意保険
民事訴訟では、損害額として数億円の支払いが認められることもあり、支払上限額が低額である自賠責保険だけでは到底対応できません。この保険は自賠責保険の支払限度額を超過した損害について補償する保険です。
もっとも、任意保険会社は判決や裁判上の和解で認定された金額は支払うものの、それに至る前、すなわち示談交渉の段階では裁判で認められる基準をもとに計算した示談金を支払うわけではなく、任意保険会社の基準と称してより低額な基準で計算した示談金を提示してきます。
無保険者傷害保険
加害者が対人賠償保険に加入していない場合、被害者は十分な賠償を受けられないことがあります。その場合、被害者側がこの保険に加入していれば、加害自動車に対人賠償保険が付されているのと同様の効果が得られます。多くの約款では死亡または後遺障害の発生が保険金支払いの条件になっています。
この保険ではいわゆる裁判基準による支払を求めることが原則として可能ですが、無保険者傷害保険会社との交渉では任意保険(対人賠償保険)と同じく、低額の基準による支払を提示されることが多いです。
もっとも、近時、無保険者傷害保険は人身傷害補償保険に加入しない場合にのみ付されたり、あるいは人身傷害補償保険の一部に実質的に組み込まれた形を取ったりする約款を採用する保険会社が現れています。こういった保険会社の保険に加入している場合には、無保険車との事故により損害が発生したときに人身傷害補償保険の支払基準(裁判基準より低額です。)でしか損害が補填されない可能性があります。
保険会社ごとにケースバイケースなので、自分の保険ではどうなるのかについては保険約款を確認するか、約款が難しくてよくわからない場合には保険に詳しい弁護士に相談してみるとよいと思います。
無保険者傷害保険において裁判基準での解決が不可能な保険会社
近時、各保険会社の補償内容も多種多様で、無保険車傷害保険であっても、約款上、裁判基準による保険金の取得ができないものが増えています。その内容をおおまかに分類すると、
①無保険者傷害保険における損害が人身傷害補償保険の基準によって算定されるもの
②人身傷害補償保険の適用のない場合にのみ、無保険者傷害保険が適用されるもの
があります。
①は、人身傷害補償保険の基準(裁判基準より低額です。)によって損害が算出されるので被害者にとって不利ですし、②は、人身傷害補償保険が普及していることに鑑みると、結局、人身傷害補償保険の基準によって損害が算出されることが多くなり、やはり被害者にとって不利になります。
平成27年1月5日始期で保険が適用されると仮定して、各保険会社の約款上の取扱は以下の表のとおりになります。(注:保険会社の約款は随時改正されています。保険の加入時期によっては以下の表のとおりではなく、被害者有利になることもあります。気になる方は一度弁護士に確認する等してください。)
各保険会社を比べると、無保険車傷害保険に関しては、共栄火災、アクサダイレクトが被害者に有利な約款となりそうです。
保険会社 | ①保険金の算出基準 | ②人傷との関係 |
東京海上日動(トータルアシスト) | 人傷の基準 | 人傷なしのとき適用 |
三井住友(GK) | 裁判基準が可能 | 人傷なしのとき適用 |
損保ジャパン日本興亜(THEクルマの保険) | 人傷の基準 | 関係なし |
共栄火災(KAPくるまる) | 裁判基準が可能 | 関係なし |
ソニー損保(Type-s) | 裁判基準が可能 | 人傷なしのとき適用 |
アクサダイレクト | 裁判基準が可能 | 関係なし |
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険は、人身事故によって被った損害について、被害者側の過失割合にかかわりなく保険金が支払われる保険です。自分に過失がある場合、(特に過失が大きい場合)に利用価値がある保険であるといえるでしょう。
もっとも、自分に過失がある場合にも保険金が支払われるといっても、その保険金は保険約款上の算出基準に基づいて計算された金額であり、この保険約款上の基準は、いわゆる裁判基準(裁判をしたときに加害者側に責任を負わせることができる賠償金の基準)より低額であるという点には注意が必要です。
人身傷害補償保険は比較的歴史の新しい保険であり、そのことも関係してか、これまでに多くの裁判で様々な点が争点となっています。
人身傷害補償保険金を受け取りつつ、加害者に対して損害賠償請求を行う場合には、一定の配慮を要する場合がありますので、一度、保険に詳しい弁護士に相談してみてもよいでしょう。